Share

<終章>  昨夜の話と今 2

last update Dernière mise à jour: 2025-06-29 17:17:21

「翔……。そうよ、そこが問題なのよ……貴方のそういう所が嫌になったから私は貴方に見切りをつけたのよ!」

明日香がヒステリックに叫ぶと、ついに我慢が出来なくなったのか、猛が声を荒げた。

「うるさい! 2人とも! 痴話喧嘩をさせるためにお前を呼んだのではない! 蓮の話を伝える為に呼んだのだ! これは決定事項だ! 蓮のことも、修也が次期社長になるのも……誰にも覆すこと等出来ない!」

「「……」」

猛の言葉に2人はすっかり静かになった。

「明日にでも蓮と養子縁組手続きを取る。分かったな? だがお前たち2人は蓮の実の両親だからな……望めばいつだって会わせてやるし、蓮が承諾すれば数日位、一緒に過ごさせてもやる。行事だって出たいなら参加すればいい。ただし、全ては蓮を尊重する。蓮が拒めばそれまでだ。そして第一優先は朱莉さんだ。蓮に会える一番の資格を持つのは他でもない朱莉さんだからな。朱莉さんが望むなら蓮と週の半分は一緒に暮らさせても良いと考えている」

猛は淡々と語るが……翔はもうどうでもよかった。

(結局……俺は社長の座を逃し、朱莉さんを自分の妻にすることも出来なかったのか……)

朱莉を本気で愛してしまっていた翔に取っては、もはや絶望しか無かった。挙句にこの先ずっと今まで自分が見下していた修也に今度は従わざるを得ない立場になったことが悔しくて仕方がなかった。

 一方の明日香は悔し気に猛の話を聞いていたが……その反面、朱莉の部屋で偶然聞いてしまった2人の様子を思い出していた。蓮と朱莉は抱き合って泣いていた。そして、その涙の原因を作ってしまったのは他でもない、自分なのだ。

「……分かりました。御爺様……。蓮の親権は……どうぞ御爺様が貰って下さい。私は長野へ……帰ります。

「そうか……お前も大分聞き分けが良い人間になれたな。やはりそれは蓮のおかげかもしれん」

猛の言葉に明日香は尋ねた。

「蓮に会いたい時は……本当に会わせてくれるんですよね?」

「ああ、勿論だ。お前の息子だからな」

「ありがとうございます。……それでは荷造りがあるので失礼させていただきます」

明日香は立ち上がった。

「……」

しかし、翔は何も言わずに目を伏せている。

「明日香さん……!」

修也が明日香の名を呼んだ。

「各務さん……だったかしら? 次期社長、頑張って下さい。御爺様も……お元気で」

「ああ、お前もな」

明日香
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 13

    「え? で、でもそれではご迷惑では……」舞は戸惑った目で琢磨を見た。「ですが貴女が1人で行っても何とか出来るとは思えませんからね」琢磨は運動会での出来事を思いだしていた。「そ、それは……」俯く舞。「とにかく、今はそんなことよりも早く幼稚園に行かないと。いつお子さんが連れ去られてしまうか分りませんよ?」「!わ、分りました……。お願いします……」琢磨は頷いた。「よし、では早速行きましょう!」そして琢磨と舞は一緒に幼稚園に向かうことになった――****「あ、あの……本当によろしいのでしょうか?」会社ビルの地下駐車場に駐車していた琢磨の車に乗り込むと舞は尋ねた。「ええ、問題はありません」琢磨はナビをセットしながら答えた。「でも……大企業の社長さんなのに……」「そんなこと気にしなくて大丈夫です。では行きましょう」琢磨はハンドルを握りしめ、アクセルを踏んだ――****「あの……社長さん……」車を走らせるとすぐに舞が話しかけてきた。「社長さんはやめて下さい。私の名前は九条琢磨といいます」「そ、そうですか……あ、私の名前は本田舞と申します」「本田舞さんですね。分りました」「私と子供の関係についてお話しておきたいことがあるのですが……聞いていただけますか?」「そうですね。出来れば教えていただきたいと思っていました」琢磨はチラリと舞を見る。「はい、あの子……レンは私の子供ではありません。亡くなった姉の子供なんです……」「お姉さんの……」「私と姉は両親を子供の頃に亡くし、ずっと静岡に住む母方の祖父母に育てられてきました。そして姉は大学を卒業すると、すぐに就職のために上京し、2年後に突然男性を連れて帰って来たのです。この人と結婚したいと言って」「それはまた随分唐突な話ですね? その相手があの少年の父親ですね?」「ええ。でも相手の男性は初婚ではなかったことで祖父母は絶対に認めず、2人は去って行きました。その後すぐです。結婚の知らせが届いたのは」舞は俯き、ギュッと手を握りしめた。「なるほど……お姉さんは結局あの男を選んだのですね」「はい。そして私も都心の大学に入り、上京して1人暮らしをしていました。姉とは電話やメールのやり取りしていました。姉の子供が生まれた時も連絡を貰ったし……。そんなある日突然姉から離婚の知らせを受け取

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 12

    (困ったな……何を話せばいいんだ……?)会話の糸口が見つからず、困っていると意外なことに舞から話しかけてきた。「本当に大きくて素敵な会社ですね」舞はカフェオレを一口飲んだ。「え? ああ……そう言ってもらえると光栄です」「いいえ、光栄なのはむしろ私の方です。『ラージウェアハウス』は1カ月に4~5回は利用させていただいてるので今はゴールド会員証を持っています。だから会社の中はどうなってるのかな~とか、ずっと興味があったんで。今回こちらで清掃の仕事が入った時は嬉しかったです。しかも本社でのお掃除の仕事なんて」「そうなんですか? それではユーザーの意見を聞かせていただけますか?」(ゴールド会員なんて……かなりのヘビーユーザーじゃないか。貴重な意見が聞けそうだ)琢磨は思った。「え……? 意見ですか……? 私の意見で良ければ…」舞はちょっと迷いながらも話し始めた。「あの~私が幼稚園に通う男の子と暮らしているのはもうご存じですね?」「はい、知っています」「それで私がその子の母親では無いことも……」「……ええ、そうですね」本当は琢磨は自分から色々尋ねたいことがあったが、出会ったばかりの相手にぶしつけに質問をることは出来なかった。「私、大学を卒業してから、就職にあぶれちゃってフリーターなんです」「え?」「それに保育園にも入れなくて……15時にはお迎えに行かないといけないんです。それ以降は延長料金が高くて。」「……」琢磨は黙って聞いている。「それで17時からは21時まで介護施設で働いているんです。そこの所長はとても良い方で子供を預かってくれるんですよ」(何だか随分重たい話になってきたな……よほど生活に困っているのかもしれない……)「なのでとにかく買い物に行く時間も無いので、ミールサービスも手掛けてくれていればいいなって思いますね。しかも朝頼めば夕方に届けられるとか……」「ああ、なるほど……それは良いかもしれませんね。貴重なご意見として社長に相談してみますよ」琢磨の言葉に舞は怪訝そうな表情を浮かべた。「え……? あ、あの……てっきり貴方が社長さんだと思っていたのですけど……」「ああ……確かに私も社長ですけど、雇われ社長ですからね」「そうだったんですか」その時――プルルルル……突然舞の首からぶら下げていた携帯に着信音が聞こえて

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 11

     琢磨と二階堂がオフィスで打ち合わせをしている間、舞は一生懸命窓ふきの清掃をしていた。時折、キュッキュッと窓を拭く音が聞こえてくる。(真剣に仕事しているな……)琢磨は時折、チラリと舞に視線を送っていると……。「おい、聞いているのか九条」突如二階堂が声をかけてきた。「き、聞いていますよ!」慌てて答えるも、二階堂は意地悪そうな笑みを浮かべた。「嘘言え……俺が何も気づいていないとでも思ったのか? 見惚れていたんだろう?」「な、な、何を見惚れて……!」「花に」「え? は……花?」「ああ、そうだ。ほら、見ろ。昨日、業者に頼んで花を届けてもらったんだ」見ると、窓際の近くに置かれた観葉植物の隣には長細い大きな花瓶に美しい色とりどりの花が見事に飾られていた。(え……? いつの間にあんなものを…?)「どうだ? 美しいだろう? あれに見惚れていたんだよな?」二階堂がさらに尋ねてくる。「え、ええ……もちろんですよ」すると突然グイッと二階堂が顔を近づけてくると小声で言った。「嘘言え」「は?」「九条、お前さっきからずっとあの女性清掃員ばかり見ていたぞ? 俺が気付いていないとでも思ったのか? さては一目惚れでもしたか? だが、かなり若そうに見えるぞ? お前よりだいぶ年下かもしれん」「な・な・な・何を言ってるんですか!」琢磨は真っ赤になって思わず大声を上げてしまった。その声に驚いて振り向く舞。「あ、い、いえ。何でもありませんよ。どうか気にしないで下さい」琢磨は慌てて舞に謝罪の言葉を述べる。「はい」舞は頭を下げると再び窓ふきを再開した。(全く……とんでもない人だ……!)琢磨は心の中で溜息をついた――**** それから約1時間後――「あの、窓ふきの清掃終わりました」清掃用具を片付けた舞が2人に声をかけてきた。「ああ、どうもありがとうございました」二階堂は笑みを浮かべると窓ガラスを見た。「へ~ピカピカですね。曇り一つ無いですね。うん、やはり流石プロだ」腕組みしながら感心したように言う二階堂を琢磨は半ば感心、半ば呆れながら見ていた。(全く……口がうまいんだからな。だから女性にも勘違いされやすくて時折夫婦げんかに発展しているんだろう)等とが琢磨が考えていると、二階堂がとんでもないことを言ってきた。「あのもしよければ、コーヒーを

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ>  第3章 九条琢磨 10

    「あ、おはようございます。社長」琢磨は椅子から立ち上ると挨拶をした。「おはよう、琢磨。ところでお前、こんなところで何してるんだ? ここは打ち合わせ用の部屋じゃないか?」二階堂はがらんとした部屋を見わたす。「ええ、そうなんですけど……。って言うか何故俺がこの部屋にいることを知ってるんですか?」「ああ、それはな、お前の部屋に行ったら窓ふきの清掃員しか姿が見えなかったからだ。それでお前の行方を聞いたら、この部屋にいるって言うから様子を見に来たんだよ。何故自分の部屋で仕事をしないんだ?」二階堂は不思議そうな顔で尋ねる。「気が散るからですよ……」「え? 気が散る? そんなに窓ふきされると気が散るのか? お前は」「いいえ、俺じゃありません。彼女の気が散るからです」「彼女? 彼女って……あの清掃員スタッフのことか?」「……」琢磨は黙って頷いた。「お前……気を使い過ぎだろう? 彼女は仕事で来てるんだ。今までだって多くの会社で窓ふきをしてきたはずだ。人の視線なんか気にならないだろ……って。……もしかしてお前……」二階堂の顔が何やら意味深にニヤケる。「な、何ですか!? 社長……何か言いたいんですか!?」つい、琢磨の声に焦りが出る。「いや、別に。まぁいい。お前を尋ねたのは仕事の話があったからだ。どれ、座るぞ」二階堂は折りたたみ椅子を運んでくると机を挟んで琢磨の向かい側に座り、早速仕事の話をはじめた――****――コンコン部屋の外でノックの音がした。「ん? 誰か来たようなだ?」二階堂が対応しようと腰を上げると、琢磨は慌てた。「社長、俺が出るので座っていてください」琢磨は素早く立ち上がるとドアへ向かう。その様子を二階堂はじっと見つめていた。ガチャリとドアを開けると、やはりそこに立っていたのは舞だった。「お待たせいたしました。お掃除終わりました」「ああ、どうもありがとうございます」「はい、それでは失礼します」頭を下げて立ち去ろうとする舞を近くにやってきた二階堂は引き留めた。「あの、少し待っていただけますか?」「はい? 何でしょうか?」舞は不思議そうな顔で二階堂を見た。「私の部屋の掃除もお願いできないでしょうか? ここから2つ先の部屋になるのですが」「え?」舞の顔に戸惑いの表情が浮かぶ。それを傍で見ていた琢磨は心の中で舌打

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 9

    「どうでしたか? あの後は何事もありませんでしたか?」琢磨の質問に舞は少し困った表情を浮かべる。「え? ええ。大丈夫でした。それで、これからこのお部屋の窓ふきをさせていただいてもよろしいでしょうか?」「あ、そうでしたか。清掃会社のスタッフだったんですね? ええ、大丈夫です。お願いします」琢磨が頭を下げると、舞はほっとした顔を見せた。「では、早速お掃除に入らせていただきますね」舞は頭を下げると、早速清掃用具の乗ったカートを押して琢磨の背後にある全面ガラス張りの窓へと向かい、持っていた清掃用具を次々と取り出した。(よし、俺も仕事にとりかかるか……)琢磨はデスクの上に乗っていたノートパソコンの蓋を開け、今抱えている案件の資料を取り出し、デスクの上に広げ……チラリと舞の様子をうかがった。(あんな小柄な身体でどうやってあの高い窓を掃除するつもりなんだろう……? 軽く見積っても3m近くはあるのに)作業している舞の姿を見ていると、彼女は窓拭き用のワイパーをクルクルと回し始めた。するとワイパーの棒の長さがどんどん長く伸びてゆく。(ああ……なるほど。あのワイパーは伸縮自在だったのか。なら高い場所でも届くな)そこまで考えていた時。「あの~」突然舞が声をかけてきた。「え?」「あ、あの……私に何か御用でしょうか?」「え……? あっ!」琢磨はその時になって気が付いた。そっと見ているつもりが、いつの間にか琢磨はジロジロと舞を見ていたようだったのだ。「すみません。こんな高い窓どうやって掃除するのか気になってしまって、ついまじまじと見てしまいました。申し訳なかったです。気が散ってしまいましたね?」琢磨は慌てて謝罪した。つい、舞の事が気になって見つめていたとは口が裂けても言えない。「いえ、気が散ると言う事はないのですけど……何か私に用があるのかと思って」舞は居心地が悪そうに言う。「すみません。用は別にありません」(まずいな。このままじゃきっと彼女の気が散って掃除がしにくいかもしれない)そう思った琢磨は使用していたPCの電源を落とし蓋を閉じ、デスクの上に広げていた資料をバサバサとまとめ、茶封筒に入れ、さらに私物のカバンを引き出しから取ると椅子から立ち上った。「あ、あの……どちらかへ行かれるのですか?」舞が慌てたように尋ねる。「右隣の部屋で仕事を

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 8

     月曜9時――いつものように出社してきた琢磨はあることに気が付いた。水色の上下のユニフォームに同色のキャップを被った人々が大勢清掃用具を持って歩き回っていたのである。(何だ? いつもの管理会社の清掃員たちとは違うな? 何かあったのだろうか?)訝しみながら琢磨は廊下を歩き、社長室の扉を開けて中へと入った。この部屋は琢磨専用の社長室である。以前までは二階堂と同じオフィスルームで仕事をしていたが、事あるごとに二階堂が自分の仕事を振ってきたり、仕事中にも関わらず自分の家族の自慢話をするなど、私語が絶えなかった。そこで二階堂に半ば泣きつくような形で自分専用のオフィスを用意して貰ったのだが、それでも1日の内半分は二階堂と同室で仕事をしている。琢磨が与えてもらった地上15階にあるオフィスルームは南側は全面ガラス張りで、眺めの良い景色が眼前に広がっている。日当たりが良いので窓際の隅に置かれた観葉植物は大きく育っている。琢磨は窓際に寄せたデスクに向かうと引き出しを開けて自分のカバンをしまい、コーヒーメーカーが置かれているカウンターへ向かった。「今朝はこれにするかな……」カフェモカのカプセルをコーヒーメーカーにセットし、出来上がったコーヒーを手に取った。途端に室内にコーヒーの良い香りが漂ってくる。「朝はこの時間が一番好きだな……」琢磨は呟くと、湯気の立つカップを持ってデスクへ移動した。窓際に立ち、ここから見える高層ビル群を眺めながらコーヒーを飲んでいると、突然ノックの音が聞えて来た。――コンコン「ん? 誰だ?」琢磨のオフィスを訪ねてくる者は二階堂以外滅多にいない。そしてその二階堂は重役出勤の為にまだ出社してくることは無い。「どうぞ」「失礼いたします」ドアが開かれ、大きなカートを押したユニフォーム姿の女性が入室してきた。(あのユニフォームは……)それは先ほどこの部屋まで来る途中にすれ違ったユニフォームと同じデザインだったのだ。入室してきた人物はキャップを目深に被っている為に顔が良く見えないが、まだ若そうに見えた。「あの、本日は定期的なビル清掃の日なので掃除に来たのですが大丈夫でしょうか?」女性はキャップを外し、琢磨を見た。その顔には見覚えがあった。「あ……君は……!」「え?」女性は不思議そうに首を傾げた。「あの……もしかして私のことを

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status